日本の不動産投資の歩みを振り返ろう。
不動産投資の源流は「長屋」にあり
時代劇や落語がお好きな方であれば馴染みがあるであろう「長屋」。長屋とは江戸時代に始まった庶民の典型的な住まいで、複数世帯が集まった賃貸アパートのようなイメージです。天下泰平の江戸の世は商人の力が増し、武家や公家が所有していた土地を財力で買い集めるようになります。そこに庶民向けの住宅を建築し、店子と呼ばれる賃借人から賃料を得る事業を始めたのです。現代の不動産ビジネスと大きくは変わらないビジネスモデルがすでに確立されていたのには驚きです。

明治期に入ると土地や建物を財産として認める法律が整備され、「不動産」という言葉が使われ始めます。金貸業の傍らで営まれていた不動産事業を専門に手掛ける不動産業者が現れるのは明治中期以降で、現代の住宅ローンの原型となる「割賦販売方式」も導入されるようになります。明治6年(1873年)の地租改正によって個人が土地を所有できるようになり、不動産の売買が全国的に行われるようになっていったのです。
大正期には大規模な都市開発が進み、地価が大きく高騰。それまで中心となっていた戸建てや長屋に加えて、アパートやマンションなどの新しい建築様式を続々と登場しました。昭和に入ると、太平洋戦争下での大規模空爆により都市部の住宅が深刻な被害を受けます。戦後の混乱期に不動産を巡るトラブルが相次いだことから、宅地建物取引業法が昭和27年(1952年)に制定されました。その後、高度経済成長時代を迎え、住宅の供給は安定に向かいました。

日本の不動産投資はこうして変わってきた
日本の近代的な不動産投資の流れは、大きく4つのフェイズに分けられるでしょう。第1期は、戦後からバブル経済崩壊までの1940年代から1990年ごろまで。それまで不動産投資は一部の資産家や地主が中心でしたが、不動産価格の落ち着きや賃貸経営の安定性が認知されるようになったことで、会社員にも不動産投資が広まり始めます。特に昭和50年代以降はライフスタイルの多様化が進み、ワンルームマンションに対する需要が急速に高まりました。賃貸収入に加えて、物件購入価格と売却価格の差益であるキャピタルゲインを目的とした投資が活発だったこともこの時代の特徴です。地価や不動産価格が右肩上がりだったからこそ成立した投資スタイルだったと言えるでしょう。この後、地価高騰を背景としたバブル経済が崩壊します。
第2期は、バブル崩壊後の1990年代から平成20年(2008年)のリーマンショックまでです。バブル期の地価高騰は、一方で深刻な格差拡大を招きました。憂慮した政府が不動産向け融資を引き締めたことで、平成3年(1991年)をピークに地価は暴落。高い不動産価値を担保に融資を繰り返していた金融機関は多額の不良債権を抱え、その後の「失われた10年」に続いていきました。地価は平成15年(2003年)頃に底値を記録。この頃から外資系ファンドなどが国内不動産への投資を活発に行なったことで、都市部を中心に地価は回復へと向かっていきました。不動産価格が下落している時期でも、不動産価格が下がっても家賃収入は大きくは下がらないことに注目した投資家資産家を中心に不動産投資熱が高まっていました。一般的になったとは言えないまでも、不動産投資に対する関心は不況下でも上がり続けていたのです。
第3期は、平成20年(2008年)のリーマンショックから平成30年(2018年)頃まで。米・大手投資銀行のリーマンブラザーズの経営破綻に端を発した世界的な金融危機により、全世界的に不動産価格が暴落しました。多分に漏れず景気後退局面に入った日本では、平成24年(2012年)に第二次・安倍内閣が発足。経済刺激策として「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の三本の矢からなる「アベノミクス」を掲げました。特に象徴的だったのが「マイナス金利」です。平成28年(2016年)に導入されたこの政策は、民間銀行が企業や個人への積極融資を後押しするものでした。これが不動産投資意欲を刺激し、会社員の不動産投資が加速したと考えられています。特に、地方銀行はアパート向けのローンに力を入れるようになり、これが後の「かぼちゃの馬車事件」、いわゆる「スルガショック」につながっていきました。
第4期は平成30年(2018年)のスルガショックから現在まで。スルガ銀行と不動産業者が共謀した不正融資が発覚。投資用不動産を購入した個人オーナーの多くが返済困難や自己破産に陥ったことで、銀行には業務改善命令が出され、悪質な不動産会社が市場から淘汰されるきっかけとなりました。個人投資家を食い物にするような不動産業者が市場から退場することで、不動産投資の世界がよりクリーンになったとも言えるでしょう。

姿を変えつつ、進化を続ける不動産投資
こうして振り返ると、投資対象やスタイルはすこしずつ姿を変えながらも、世界最古の投資法である不動産投資そのものはこれからも残り続けていくと考えられます。かつては、一部の権力者や資産家のみが不動産からの利益を得ていた時代が長く続きましたが、現代では不動産投資は誰でも手の届く投資法になっています。ICTのさらなる発達やAIの進化により、これからの不動産投資のスタイルも新たな局面に入ると考えられます。REIT(不動産投資信託)や不動産クラウドファンディングなども、これからの不動産投資の選択肢として注目されることでしょう。不動産投資の潮流を見極め、適切な手段を選択することで、人生を豊かにするチャンスをつかめる時代がやってきているのです。正しい知識と慎重な判断を持って不動産投資に臨む人が増えて欲しいものです。