小さな一歩から始める、無理のないDE&Iとの向き合い方。
DE&Iを意識するとこんなに変わる
個々の違いを尊重し、あらゆる人が公平な機会が得られ、誰もが安心して活躍できる環境を作ることを目的とするDE&Iという考え方。毎日の暮らしのなかでDE&Iを意識することは、私たち一人ひとりにも多くのメリットをもたらしてくれます。
まず、多様な価値観に触れることで、視野が広がり、柔軟な思考ができるようになります。異なるバックグラウンドを持つ人々との対話を通じて、新しいアイデアや発想が生まれ、ある日、気がつくと自分の創造力や問題解決能力が向上していることに気づくでしょう。特に、グローバル化が進む現代社会では、多様性を理解し受け入れることが不可欠。キャリア形成にもプラスの影響を与えてくれるはずです。また、偏見や固定観念が払拭されることから、あらゆる人間関係が円滑になり、豊かな人間関係やコミュニティ形成にもつながります。さらに、インクルーシブな(包摂性のある)環境では、一人ひとりがありのままで尊重され、自分を偽ったり、飾ったり、隠したりすることなく、安心して自分らしく生きることができます。自己表現の自由が得られることで精神的なストレスが軽減され、幸福度も向上するでしょう。

映画に学ぶDE&I
DE&Iに関心を持たれた方はぜひこちらの映画も。人種差別、性差別、病気、障害といった様々な難題を抱えながらも、周りの温かな支えを借りて力強く乗り越えていく姿は、私たちに生きる勇気を与えてくれます。実話に基づく作品も多く、歴史を学びながら、DE&Iという言葉が持つ意味に触れることができるのは映画の持つ確かな力です。当事者はもちろんのこと、その人と共に生きる周囲の人たちの心情をも丁寧に描き出した秀作からは、困難を抱える人たちとの関わり方を考える上での素晴らしいヒントを得られると思います。

❶『グリーンブック』(2018年):1960年代のアメリカを舞台とした実話に基づいた作品。黒人ピアニスト ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)と、そのドライバー兼ボディガードを務める粗野なイタリア系であるトニー(ヴィゴ・モーテンセン)の2人は、未だ根深い人種差別の残る南部の都市を巡るツアーに出る。旅のなかで二人は衝突を繰り返すも、やがて友情を深め、互いに成長する。「グリーンブック」とは、当時の黒人専用旅行ガイドのこと。

❷『最強のふたり』(2011年):実話を元にしたフランスの感動作。不慮の事故で首から下を麻痺した大富豪フィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、スラム出身の無職の青年ドリス(オマール・シー)を介護人として雇う。年齢も、経歴も、身分も、性格も、どれを取っても正反対の2人だったが、次第に心を通わせ、他にはない豊かな友情を築く。社会を取り巻く様々な壁を乗り超えた特別な関係性は、多様性や人と人との絆の大切さを伝えてくれる。

❸『アイ・アム・サム』(2011年):知的障害を持つ父親とその娘の強い絆を描く。ビートルズをこよなく愛する知的障害者のサム(ショーン・ペン)は、愛娘ルーシー(ダコタ・ファニング)を懸命に育てるも、知的能力がわずか7歳程度であることを理由に善意の第三者によって親権を奪われそうになる。サムは辣腕を誇る女性弁護士リタ(ミシェル・ファイファー)の助けを得て、ルーシーとの生活を守るために法廷で奮闘する。

❹『ドリーム』(2016年):主人公は1960年代に活躍したNASAの黒人女性数学者たち。米ソ宇宙開発競争の真っ只中に活躍したキャサリン・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)、ドロシー・ヴォーン(オクタヴィア・スペンサー)、メアリー・ジャクソン(ジャネール・モネイ)という3人の女性数学者が、人種や性別の壁を乗り越え、勇気と明るさで人類の月面着陸を支える姿を描き出す。社会の不平等と戦いながら、科学の進歩に貢献した女性たちの物語。

❺『レインマン』(1988年):自閉症スペクトラムを持つ兄レイモンド(ダスティン・ホフマン)とその弟チャーリー(トム・クルーズ)の感動的な兄弟関係を描く。チャーリーは、亡き父親の遺産を巡って疎遠だったレイモンドを施設から連れ出し、2人だけのロードトリップを始める。レイモンドは驚異的な記憶力と計算能力を持つ一方で、障害によって社会生活に馴染めない。チャーリーはレイモンドの特異な才能と純粋な心に理解を示し、兄弟はその絆を深めていく。
日々の中で始められるDE&I
DE&Iは、必ずしも特別な制度や改革が必要ではなく、日常生活の中で一人ひとりが意識することから始められるものです。職場や学校など、同じ集団に属する異なる背景を持つ人の意見を積極的に聞く、偏見や固定観念に囚われることなくフラットに判断する(アンコンシャス・バイアスを外す)、インクルーシブな言葉遣いや話し方を実践する、多様な文化や社会の情報に積極的にアクセスするなど、身の回りにある小さな行動からでもDE&Iは推進できるのです。まずは自分自身の行動を見つめ直し、小さな変化を積み重ねることが、DE&Iを実現する第一歩になります。
一方で、DE&Iに取り組む際には注意しなければならないこともあります。それは「表面的な取り組みに終わらないようにすること」です。「多様性(Diversity)を受け入れる」「包摂性(Inclusion)を担保する」と言葉だけを掲げても、行動や環境が変わらなければ何の意味もありません。使い勝手のいい言葉であるからこそ、行動が重要なのです。また、一人ひとりの違いを尊重するがあまり、特定のグループを特別に扱いすぎることで、却って「公平性(Equity)」を損なう可能性があることにも注意しましょう。
「DE&Iは一部の人だけの問題」と考えるのではなく、誰もが関与すべき社会の重要課題であるという捉え方が大切です。最初は意識的に異なる意見や立場を尊重してDE&Iを実践していけば、自然とDE&Iの考え方が自分のなかに定着していくはず。着実な対話を重ねることで、より現実的で、より実行可能なDE&Iを実現していきたいですね。