特集 03 デザイン性が高める「マンションの資産価値」。

Vol. 01

名作集合住宅に学ぶ「デザインとマンションの幸せな関係」。

マンションはデザインで選ぶ。

あなたがマンションを購入しようと思ったら、どのような観点から物件を比較・検討するでしょうか。立地や利便性、耐震性能などの品質、間取りなどの住環境、管理体制や修繕計画、周辺環境、ブランド…。人によって重視する要素は異なりますが、それらすべてについて検討し、自分の価値観と照らし合わせて総合的に判断したうえで、将来的な資産価値の維持・向上が期待できる物件を選ぶのだと思います。

そして、中長期的な資産価値の観点から見た場合に付け加えたいポイントが「マンションのデザイン性」です。デザイン性はその他の要素に比べて優先度が下がる。そう考える人も多いかもしれませんが、実はデザイン性の優れたマンションは資産価値を維持しやすく、資産形成の面でも有利に働くことが期待できるのです。

名作建築に見る「デザインと資産価値の関係性」。

マンションのデザイン性が資産価値に大きな影響を与える。このことは国内外の名作集合住宅の事例を見ていくことで、より深く理解できるでしょう。ここでは特に高いデザイン性で知られるマスターピースを取り上げます。ご存知の建築も出てくるかもしれませんね。

❶ ユニテ・ダビタシオン(マルセイユ)

ル・コルビュジエ、本名 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレは言わずと知れた20世紀モダニズム建築を代表する建築家のひとり。「住宅は住むための機械である」という理念のもと、合理性と機能性を追求した建築を手がけました。1952年に竣工した彼の集合住宅の代表作「ユニテ・ダビタシオン」は「都市の再発明」と称賛され、都市住宅の在り方に革新をもたらしたと言われます。デザイン面の特徴を見ていくと、鉄筋コンクリート造の18階建て・337戸の構造体は彼の特徴のひとつである「ピロティ」によって持ち上げられ、自然との共生を図りながらも自由な動線を確保しています。住戸はメゾネット形式で構成され、各階に内部街路が設けられており、水平・垂直の動線計画が精緻にデザインされています。さらに、人間尺度に基づく寸法体系「モデュロール」により、空間のプロポーションが統一されている点も特徴的です。屋上には保育施設やアスレチックジム、ホテルや商業店舗も併設され、単なる住居ではなく「垂直の庭園都市」として設計された先駆的な事例となっています。ユニテ・ダビタシオンは他にも、ルゼ、ブリエ・アン・フォレ、フィルミニ、ベルリンにも建設されましたが、彼の設計思想が最もよく表れているのが、最初に建てられたこのマルセイユのものと言われます。この建築は2016年に世界遺産に登録され、その希少性と設計思想の独自性から文化的・資産的価値を保っています。内部空間の改修にも厳しいルールが課せられている現在でも、国内外からの入居希望者は引きも切らず、高いデザイン性がマンションの資産価値に強い影響を与えていることがわかる事例となっています。

❷ カサ・ミラ(バルセロナ)

手がけたのは、植物などの自然物を想起させる有機的建築思想で知られるカタルーニャの建築家 アントニ・ガウディ。サグラダ・ファミリアやグエル公園など公共施設の他、カサ・バトリョ、カサ・ビセンス、カサ・カルベットなど複数の集合住宅も残しました。なかでも1906年から1910年にかけて建設されたカサ・ミラは、ガウディの特徴が最もよく表れた集合住宅建築であり、実業家ペレ・ミラ夫妻のために手がけた、彼の最後の私邸作品です。「ラ・ペドレラ(石切場)」の異名が示すように、波打つような石灰岩のファサードが特徴で、自然界の岩肌や波を想起させる造形美が際立っています。ガウディは自然界に存在する形こそが最も合理的で美しく、構造的にも優れていると考えていました。建築においても自然法則や自然形態(例えば、植物の造形、波、蜂の巣、動物の骨格など)から着想を得て設計していたことはよく知られるところ。デザインに直線をほとんど用いず、曲線と流動的なフォルムが駆使された建築は生命感にあふれています。内部構造には鉄骨や独自の梁構造を導入。開放的で自由な間取りを実現しました。中庭を中心とした光と通風の設計も画期的で、機能性と芸術性を融合させたデザインを1900年代初頭に実現したことに驚くばかりです。屋上には抽象彫刻を思わせる換気塔や煙突が林立し、ガウディが得意とした彫刻と建築の境界を曖昧にしています。カサ・ミラは1994年、世界遺産に登録され、観光名所として世界中から観光客を集める一方で、商業施設や高級賃貸住宅としても利用されています。その歴史的価値と建築的独自性から資産価値は非常に高く、入居希望者の列が絶えることはありません。入居にあたっての選定基準も厳格で、限られた人のみがこの歴史的・文化的空間に住まうことを許されているカサ・ミラ。建築と芸術の結節点として、今もなおその輝きを失うことはありません。

❸ 代官山ヒルサイドテラス(東京・代官山)

日本を代表する集合住宅の傑作のひとつ。槇文彦が1967年から1992年にかけて段階的に手がけた大規模複合施設が、この代官山ヒルサイドテラス。日本の都市型集合住宅と都市デザインの両面から、現在でも高く評価されているプロジェクトです。槇は、都市と建築の関係性を重視し、環境との調和や人間的スケールを尊重する設計手法で知られるモダニズム建築家。過度な造形を避け、静謐で控えめな空間構成を志向しながら、都市空間における公共性と流動性を巧みに織り込む点に特徴があり、代官山ヒルサイドテラスにおいてもその姿勢は顕著に表れていると言えるでしょう。この建築は、代官山・旧山手通り沿いの長大な敷地に、住宅、商業施設、ギャラリー、公共空間などが複合的に配され、それらが低層かつ中庭型の構成で緩やかにつながることで、街と建築の境界が曖昧に溶け合っています。デザイン上、特筆すべき点は、建物群が段階的に増築されながらも、統一感を保ちながら変化に富んだ空間体験を提供していること。素材には打ちっ放しのコンクリート、白壁、木材が効果的に組み合わされ、周辺環境との調和が図られています。また、建築群が街区のスケールに合わせて分節されていることで、過密な都市空間の中に人間的なスケールの街並みが生まれていることが感じられます。竣工から半世紀を経た現在でも代官山ヒルサイドテラスは高い資産価値を維持しており、住宅部分が中古住宅市場に出ること自体が非常に稀。常に入居希望者が列を成しています。周辺地域の再開発とは一線を画す静謐な環境と、文化的・建築的価値を兼ね備えたこの集合住宅は、都市における成熟した住宅モデルとして国内外の注目を集め続けています。

他にも、モントリオール万国博覧会の一環として建てられたモシェ・サフディのアビタ67(モントリオール)、赤茶色の外観が印象的なリカルド・ボフィルのウォールデン7(バルセロナ)、螺旋状の回遊動線が印象的なビャルケ・インゲルスの8ハウス(コペンハーゲン)など、機能、美観、居住性を兼ね備えた集合住宅の事例は数多く見られます。優れたデザイン性を誇る集合住宅は世界中で羨望の的となり、竣工当時と比べてその資産価値が高くなっているものも多いのです。

優れた建築デザインが資産価値を高める。

デザイン性がマンションの資産価値を高める事例を見てきました。ユニテ・ダビタシオンやカサ・ミラといった世界遺産レベルとまで言わなくとも、建築から長い年数を経てもなお高い資産価値を保ち続けているヴィンテージマンションでも、立地や管理体制といった要素に加えて、高いデザイン性が物件資価値の維持・向上に寄与しているケースも多いでしょう。

優れたデザイン性が購入者と入居者を集める呼び水となり、大切に住まわれ続けることで建物全体の管理も行き届き、結果として資産価値の維持・向上が期待できる。このように、マンションにおけるデザイン性は資産価値を高める「幸せな循環」を生み出す最初の一歩となりえます。デザイン性という視点はこれからのマンション選びにとって、ひとつの大切な視点なのかもしれません。