今なら、少し言えます。
橘のような社員は、どうやって生まれるのか。編集部はその問いを携えて、人事部の2人に話を聞いた。
椎原は採用担当として、毎年新しい仲間を選ぶ側にいる。阿久津は親会社・大東建託からの出向という立場で、外側からINVALANCEを見てきた。2人の視点は違う。しかしその言葉は、同じ方向を向いていた。

―― 椎原
採用の「真ん中」にあるもの
採用面接で、椎原が最も重視していることがある。
「どちらかというと、アクティブマインドが一番真ん中にある。物事を前向きに捉えられるかどうか。スキルや経歴より、そこを見ています」
スキルではなく、姿勢を見る。ではその姿勢を、どうやって見極めるのか。
「何をやってきたか、なぜそれをやったのか。何かが起きたときにどう考えて、どう動いたか。それは新卒でも中途でも変わらない。面接は対話形式なので、会話の中から判断しています」
答えの内容より、答えに至るプロセスを見ている。スキルや経歴の厚みは人によって違う。しかしその人がどう物事に向き合ってきたか——その姿勢は、経験の量に関係なく会話の中に現れる。
葵が木村さんに「タイミングで」と自然に言えたのは、答えを持っていたからではない。そういう問いを立てられる姿勢を、もともと持っていたからだ。椎原が採用で見ているのは、まさにその姿勢だ。
椎原自身、採用活動の中でこう感じることがある。
「MVVが言語化されたことで、基準が明確になった。これまでは部署ごとに文化や考え方が違って、同じ会社なのにバラバラな部分があった。言語化されたことで、INVALANCEとしての軸がはっきりした感じはありますね」
VALUEは入社後に「覚えるルール」ではない。もともと持っている姿勢と、重なるものだ。

―― 阿久津
「外から見た」INVALANCEの現在地
阿久津は大東建託から出向という形でINVALANCEに着任した。大企業の人事を経験してきた目には、INVALANCEはどう映るのか。
「セクショナリズムという意味では、大東建託と比べるとINVALANCEはまだ少ない。規模の関係もありますが、分かる人がやる、過去やった人がフォローする、そういうカバーができる環境が残っている。それは良い部分だと思っています」
橘が6年間、中野さんのもとに通い続けられたのは、橘一人の意志だけではない。管理部門が機能し、他部署がカバーし合う環境があったから、担当者としての関わりが続けられた。阿久津が「良い部分」と語るその環境が、橘の6年間を支えていた。
一方で、率直にこうも言う。
「これまでは個人の能力や適性に頼った育成だった。規模が大きくなって多様な人材が入るようになると、それだけでは回らなくなる。マッチしないから退職、ではなく育てる方向に変えていかないといけない」
橘のような社員が、再現性を持って生まれる組織へ。それがINVALANCEの現在地であり、向かおうとしている方向だ。
「常に全力疾走では、長く持たない。マラソンと同じで、ペース配分にメリハリをつけながら走り続けることが大事です。ここぞという場面では全力でスパートをかける。そのためには、普段から自分のパフォーマンスを持続できる状態に保っておく必要がある。採用して退職してを繰り返すとノウハウが蓄積されない。長く定着することで、その人の能力やスキルが会社の資産になっていく」
ここで言われているのは、手を抜くことではない。スパートをかけるべき場面で本当の力を出せるように、走り続けられる状態を設計するということだ。橘が葵を一度もせかさなかったのも、その思想の現れだ。急かすことで短期的な数字は動くかもしれない。しかし走り続けられる人間は、そうやっては育たない。
これは育成論であり、同時に経営論でもある。
【定着がノウハウを生む構造】 長く定着する → 経験・知識が個人に蓄積される ↓ それが組織の資産になる → お客様への提案・対応の質が上がる ↓ 信頼が積み上がる
2人の言葉が向いている場所
椎原と阿久津は、違う視点から話している。椎原は「どんな人を迎えるか」を語り、阿久津は「どう育てていくか」を語る。しかしその言葉は、一つの方向に向かっている。
椎原はこう言った。
「提案すればやらせてもらえる土壌がある。受け身で待っているだけだとチャンスは来ないけれど、能動的に動ける人には、まだベンチャーマインド的な環境がある」
阿久津はこう言った。
「何か出来上がった仕組みに乗るんじゃなくて、自分で新しいものを構築していく気概のある方が、この会社では成功できると思っています」
VALUEを積み上げることが、VISIONに繋がる。その道筋を、採用する側も育てる側も、同じように信じている。
INVALANCEで働くということ
最後に、これからINVALANCEで働く人、そして今まさにここで働いているすべての人に向けて、言葉を求めた。
椎原はこう答えた。
「今インヴァランスに入社してくる方は、会社がまだ作られている途中のタイミングに来てくれている。研修体系もこれから整えていくし、制度もまだ変わっていく。それは不安な部分もあるかもしれないけれど、逆に言えば自分たちが作っていける余地がある。そこに面白さを感じてもらえたら、と思っています」
阿久津はこう言った。
「何かことが起こってから考えるのではなくて、常に問いかけられるような体制でいたい。キャリアのことも、働き方のことも、会社として先に選択肢を示していけるようにしていきたい。まだこれからですけど」
2人の言葉に共通しているのは、「まだこれから」という感覚だ。完成した会社の話ではない。今まさに、形が作られていく会社の話だ。
「開拓者たれ」という言葉の意味が、少しだけ具体的になった気がする。
それは前人未踏の場所に踏み込むことではなく、自分がいる場所を、自分の手で少しずつ良くしていくことなのかもしれない。
