内側を守る人たちの言葉
宮下のような人は、どうやって生まれるのか。「そのためにいる」という言葉の背後に、何があるのか。編集部はその問いを携えて、3人に話を聞いた。
大串は内部監査チームのメンバーとして、実務レベルの監査を担う。黒田は同じく内部監査チームのメンバーとして、監査計画の設計から現場との対話まで行う。増田は常勤社外監査役として、経営レベルの監視・監督を担う公認会計士だ。
3人の視点は異なる。しかしその言葉は、同じ方向を向いていた。

大串——「伴走する」という仕事
内部監査と聞いて、多くの社員が「摘発」や「取り締まり」をイメージする。大串はそのイメージを、こう正す。
「検察じゃありません。逮捕しないし、判決も出さない。改善の手助けという位置づけでやっています」
では何をするのか。
「行きたいところに行くために、ここをどうにかしましょうよ、という話です。ネガティブな意味ではなく、ポジティブなものとして使ってもらえるようにしたい」
摘発ではなく、伴走。宮下が遼のもとを訪れたのも、この思想からだった。気づきを届け、どう改善するかは現場が決める。答えを押しつけるのではなく、一緒に考える。それはTEAM INVALANCEというVALUEの、監査という場における実践形態だ。
やりがいを聞くと、大串はこう答えた。
「会社が良くなっていく過程を見られること。それがやりがいです。見て見ぬふりではなく、治っていく過程に触れられることが一番かな、と思います」
「会社が良くなっていく過程」——その言葉は、遼が3日間で感じたことと、重なる。宮下との会議室での30分が、遼の中で何かを変えた。その変化の積み重ねが、大串の言うやりがいの正体だ。

黒田——「事実を多面的に見る」という誠実さ
黒田が監査業務で最も大切にしていることは何か。
「双方から意見を聞くということです。こっちからもあっちからも、いろんなところから見て、ちゃんと事実を見に行きたい。それがSTAY FAIRにつながるのかなと思っています」
一方向からだけ見ると、偏りが生まれる。だから多面的に見る。主観を排除し、合理的に、客観的に判断する——それが監査の姿勢だ。
STAY FAIRは、社員に向けて掲げられたVALUEだ。しかし黒田の言葉を聞くと、それは監査業務の方法論そのものでもあることがわかる。VALUEと仕組みが、同じ言葉で語られている。遼が「お客様のことを一緒に考えていく感じ」と表現したのは、この思想が現場にまで滲み出ているからかもしれない。
そして黒田は、社員についてこう言う。
「知らなかっただけで、知ったらやってくれる人がほとんどなんです。皆さん、自分の仕事が一番大事だし、当然忙しい。そういうものだと思います。だから、こういうものですよとお伝えすれば、ああそうなんですね、とやってくださる」
悪意がある人は、ほとんどいない。知れば動ける人たちが、この会社に集まっている。遼がまさにそうだった。知らなかっただけで、知った翌朝には、手順を確認してから書類を広げていた。
INVALANCEの組織文化について、黒田はこう語る。
「なんか変なプライドとか保身とかで、むやみに抵抗してくる人がいない。それは今の特徴として、寛容さっていうのはすごく言えるなと、2年ぐらいずっと思っています」
この寛容さが、ガバナンスの浸透を可能にしている。仕組みがどれだけ精緻に設計されていても、受け取る側が抵抗すれば機能しない。INVALANCEでは、仕組みと文化が同じ方向を向いている。それが、ガバナンスの実効性を支えている。

増田——「外から見たINVALANCE」
増田は公認会計士として監査法人に長く勤めた後、2018年にINVALANCEの常勤社外監査役に着任した。外部の視点を持つ人間は、この会社をどう見ているのか。
「頑なな感じはないんですよね。理由が理解されると、素直に受け入れてくれる。そこが浸透しやすい土壌になっているんだと思います」
増田が語る「頑なな感じがない」「理由が理解されると受け入れてくれる」という言葉は、外部の目から見たSTAY FAIRの姿だ。VALUEは社内で掲げられているだけでなく、外部からも観測される。遼が「なんか、思ってたのと全然違った」と感じたのも、この文化の現れだったのかもしれない。
VISION達成に向けて、ガバナンスの観点から最も重要なことは何か。増田はこう答えた。
「自社のルールを一つ一つ着実に守ること。そして意思決定の過程を、後から振り返っても分かるようにしておくこと。人の記憶は退化してしまうので、その過程を示すのが書面なんです」
結果だけが問われるのではない。過程が誠実であったことが、問われる。
「アクセルを踏むために何が必要かを見るのが私の役割です。ブレーキではなく、安全に踏むための確認。そう思っています」
増田の言葉は、Vol.02で論じた「ガバナンスはブレーキではない」という命題を、外部の視点から裏づけている。内側から設計された仕組みが、外部の目にも同じように映っている。それがVISION達成の、最も確かな根拠になる。
3人の言葉が向いている場所
大串・黒田・増田は、異なる立場から話している。実務レベル、経営レベル、外部視点——それぞれが独立した役割を持っている。しかしその言葉は、一つの方向に向かっている。
STAY FAIR・TRY & CHANGE・TEAM INVALANCE。
3つのVALUEは、日常の判断基準として積み上げられる。しかし3人の言葉が示しているのは、そのVALUEが監査という仕組みの中でも機能している、ということだ。
VALUEを積み上げることと、ガバナンスを守ることは、同じ行為だ。
遼が翌朝、書類を広げる前に手順を確認したのは、誰かに言われたからではなかった。自分で、やろうと思ったからだ。それがTRY & CHANGEであり、STAY FAIRであり、TEAM INVALANCEだ。
INVALANCEで働くということ
最後に、これからINVALANCEで働く人、そして今まさにここで働いているすべての人に向けて、言葉を求めた。
大串はこう言った。
「もどかしさはなくはないですけど、それをやってしまうわけにはいかないので。その時は、後ろから見てるだけじゃなくて、伴走をしています」
黒田はこう言った。
「皆さんの寛容さですね。健全な方向に変化していくことを、変な抵抗もなく受け入れてくれている。それがあるからこそ、僕らも活動できているという感じで。本当に、協力していただいてありがとうございますという気持ちです」
増田はこう言った。
「着実に皆さんのおかげで会社は良くなっているというふうに実感しています。申し上げたいのは、いつもありがとう、ということです」
3人の言葉に共通しているのは、「一緒にやっている」という感覚だ。監査する側とされる側ではなく、共に会社を良くしていく仲間として。その感覚が、INVALANCEのガバナンスを機能させている。
誠実さは、努力目標ではない。 この会社では、組織の設計として機能している。 そしてその設計を動かしているのは、 VALUEを日々積み上げている、あなた自身だ。
