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# 16

未来を、託された

見えない改善が、10年後の価値をつくる。

Vol. 3

託された未来を、どう支えるか

インタビュー/ビルディングマネジメント部 信田・玉井。

建物管理という仕事を、フロント担当・信田と上席・玉井が語る。「現状維持」がもはや維持にならない時代に、先回りの判断がなぜ必要なのか。傘一本の兆候から、オーナーの変化、他部署連携の課題、そして「未来を託された部署」としての誇りまで。

なぜ「現状維持」ではなく「改善提案」が必要なのか

先回りで動かないと、追いつかなくなってきている。

建物管理を取り巻く前提条件は、過去十年で大きく変化している。施工費用は上がり、オーナーの関心は深まり、入居者の選択軸は多様化した。「現状維持」が、もはや維持にならない時代に入っている。

信田:先回りで動かないと、追いつかなくなってきています。大規模修繕でも、十年前に立てた計画と今の見積もりでは、もう全然違う金額になっていて。当初計画の一・五倍から二倍ぐらいになるケースは普通にあります。だから、十年から十二年でやる予定だったものを十五年まで延ばす判断とか、内容を精査する判断とか、そういうことを先回りで考えておかないと、いざやろうと思ったときに足りないという話になってしまう。

信田:日々の運用でも同じです。入居者からアンケートで指摘される前に動けるかどうか、というのが自分の中の基準になっています。アンケートで「ここがちょっと不便」と書かれてから動いても、そのアンケートに書いた人はもう不満を抱えているわけで。書かれる前に気づいて対応していれば、次のアンケートでは「快適です」という回答が返ってくる状態をつくれる。アンケートを使う本来の目的って、たぶんそっちなんだと思っています。

どんな変化を、価値低下の兆候として見ているか

傘一本の集団心理と、清掃員という情報源。

兆候は、しばしば最も小さなものに現れる。建物管理の現場で、彼らが日々何を「見ている」のかを聞いた。

信田:分かりやすい例で言うと、共用廊下に傘が一本置かれる、というだけのことです。これを放置していると、不思議なことに、隣の部屋にも傘が置かれ始める。さらにベビーカーが置かれて、ヘルメットが置かれて、という連鎖が起きるんです。誰かがやっていれば自分もいいだろう、という空気が広がっていく。集団心理ですよね。

信田:だから、最初の一本の段階で動きます。回収して、貼り紙を出して、共用部の基準を綺麗な状態に戻す。これだけで、その後の連鎖は起きない。逆に言うと、綺麗な状態を保ち続けているマンションは、入居者もその基準に合わせてくれるんです。結果的に清掃や修繕の負担が下がって、出ていかなくていいお金が増える。それがオーナーさんの満足度にも返っていく、という構造になっています。

信田:もう一つは、清掃員さんとのコミュニケーションですね。清掃員の方って、週に三日、四日って物件に入っているので、僕らよりも建物の日常を見ているわけです。「あの部屋の住人、最近朝早くなったみたいだよ」とか、「エントランスの右側、ちょっと暗いね」とか、雑談ベースで言ってくれる。それが結構、大事な情報源になっています。

オーナーは、どう変わってきたか

「お任せ型」から、自ら数字を読むオーナーへ。

かつての「お任せ型」オーナーは、今では少数派になりつつある。投資・資産運用への関心の高まりとともに、オーナーの行動様式は変化してきた。

信田:以前は、不動産投資はなんとなく老後のためにという感じで購入されて、あとは管理会社に任せます、というオーナーさんが多かったんです。それは商材の特性として全然問題ない部分でもあるんですけど。最近はそこに加えて、自分が買ったものが今どうなっているのか、自分が介入することでもう少し良くできないか、ということを考え始めるオーナーさんが増えてきました。

信田:質問の質が変わってきたな、というのは肌で感じます。例えば、過去数年分の収支を全部見て、「二年前、三年前はこの金額だったのに、直近この金額に上がっている。理由はこう書いてあるけど、来年は下げられるんじゃないか」というレベルで質問が来る。あとは、金利が動いたとか、新しい金融商品が出たとか、そういう情報をキャッチしている方も多くて、「こういう口座があるけど、組合として検討しないんですか」と逆に提案されることもあります。

信田:管理組合の総会も、昔は正直あまり盛り上がらないことが多かったんですけど、最近は議論が活発になってきました。「シェアサイクルを導入する」「解約する」みたいな議案も普通に出てきます。区分所有者の方が、自分の物件のことを自分で考える時代になってきている。

信田:そういう状況だと、僕らの側も「いつも通りの説明」では足りないんです。プラスアルファの提案を持っていかないと、満足度につながらない。金利の動向とか、新しい商品とか、最低限のところは僕らも勉強しておかないと、「これ提案してくれないんですか」と言われてしまう。そういう緊張感は、ここ二、三年で一気に高まったと感じています。

他部署との連携で、変えていきたいことは

設計段階からBMの視点が入れば、十年後が変わる。

建物管理は、ワンストップモデルの最終工程にあたる。しかし、設計・営業・カスタマーサクセス・賃貸管理など、上流工程との接続の余地はまだ残っている。

信田:個人の主観として言うと、もっと組める要素はあるんじゃないかな、と思っています。今でも連携がないわけではないんですが、もう一段深くできる余地があると感じる場面が多い。

信田:例えば、設計の段階でBMの視点が入っていれば、十年後の修繕コストが変わってくることがあるんです。「この仕様だと、十年後にこういう手間がかかります」「この素材だと、こういう劣化の仕方をします」というのは、運用してきた経験からしか分からない部分があって。完成してから「ああ、ここはこうしておけばよかった」と気づくよりも、設計の段階で共有できれば、十年後の運用コストを抑えられる。

信田:ただ、これって僕個人と設計の誰か一人だけの話にしてしまうと、続かないんですよ。部署単位での連携構造をつくる必要がある。雑談ベースで「こうした方がよくないですか」という話が出ることは結構あるので、その種をちゃんと拾って、形にしていくところが、これからの課題かなと思っています。

信田:あと、清掃員さんとか、外部のパートナーさんも含めた連携も大事だと思っています。一番建物の日常を見ている人たちなので、その人たちから上がってくる情報を、ちゃんと組織として活かせる仕組みがあると、もっと先回りできるはずです。

マニュアル以上に、大切にしていることは

会社の方針が根っこにあるから、現場は判断に迷わない。

ここから、上席の玉井さんに話を移す。判断の承認者という立場から、建物管理という仕事の核心について語ってもらった。

玉井:他社のことは経験がないので比較とは言えないんですけど、考え方の違いはあるかなと感じています。INVALANCEは、開発から販売から管理まで一社でやっている会社で、その中で建物管理に求められているのは、オーナーさんの資産価値を守ることなんですよね。会社として、そこが第一にある。

玉井:これってある意味、会社の方針として明確にそうなっているから、僕らも判断に迷わないんです。例えば、何か新しい仕組みを入れるときに、手数料を上乗せして売上をつくるという選択肢もあるじゃないですか。でもうちは、そういう手数料を最小限に抑えるとか、場合によっては無償で対応するということを選んでいる。

玉井:その方針が会社として明確に示されているから、僕らもそこに沿って動ける。「ここで手数料取ろう」みたいな判断にならない。会社全体としてオーナーさんの資産価値を守ることが優先されているから、現場の判断もそれに合わせられる。マニュアルに書いてあるというよりは、会社の方針として根っこにあって、それを僕らが現場で具現化している、という感覚です。

良い管理とは、何か

歩いていて分かる差を、十年後につくれるかどうか。

玉井さんは、建物管理の質を測る基準について、独自の表現で語った。

玉井:歩いていて分かる差を、十年後につくれるかどうか、だと思っています。

玉井:同じ時期に建ったマンションが三棟並んでいたとして、十年後に前を歩いたときに、「ここのマンション、ちゃんと管理されているな」と感じるかどうか。住んでいない人が、外からぱっと見て分かるぐらいの差が出る。それが、十年間の管理の積み重ねの結果なんです。

玉井:その差は、何か一つの大きな施策で出るものではないんですよ。日々の小さな判断の積み重ねで、じわじわと差がついていく。清掃を妥協しない、植栽の手入れを怠らない、共用部の劣化を放置しない、エントランスの照明を切れたままにしない。一つひとつは大したことのない判断ですけど、それを十年続けると、見た目に出る差になる。

玉井:あとは、新しい設備をどう取り入れるかという判断もあります。スマートロックとか、顔認証のエントランスとか、そういう新しいものを冷静に取り入れていけるかどうか。同じ時期に建ったマンションでも、十年後に「ここは最新の設備が入っている」と感じてもらえれば、相対的に価値が高い状態を保てる。INVALANCEは、そういう新しいものに対する感度が高い会社だと思っているので、僕らもそれに合わせて運用面で取り入れていく。

玉井:木を見て森を見ず、にならないことも大事です。大規模修繕みたいな大きな仕事もあるけれど、日々の小さな対応もちゃんと見る。両方見て、両方に判断を入れる。それが、良い管理かなと思います。

今後の大型修繕に向けて──そして建物管理の未来

未来を託された部署として、誇りを引き受ける。

取材の最後に、これからの展望を聞いた。

玉井:個人のスキルアップは、課題として強く感じています。うちのチームは、他社の建物管理を経験したメンバーが今のところ一人だけで、ほとんどがINVALANCEしか知らないんです。それは強みでもあるんですけど、外を知らないと気づけない部分もある。外部の知見をどう取り入れていくか、というのはこれから考えていきたいです。

信田:大規模修繕実施前の調査で 、小さな兆候を見逃さないということもより重要になってくると思います。例えばタイルの音とか。打診棒で叩いて、コツ、と正常な音がする箇所と、カーン、と乾いたような音がする箇所がある。音が違うと、その下のタイルが浮いている可能性が高い。十四年目の建物で何箇所か浮きが見つかれば、それは異常ではないんですけど、十五年目の大規模修繕までに状況が悪化する可能性があるので、その時点で写真と位置を記録したり。そういう小さな積み重ねを、これから大規模修繕に向けてしっかりと取り組んでいかないといけないと思います。

玉井:あとは提案力ですね。金利の動向とか、新しい金融商品とか、外部環境の変化をキャッチアップして、オーナーさんに先回りで提案できる体制をつくっていく必要があります。オーナーさんの方が情報を持っていて、「これ提案してくれないんですか」と言われるようでは、もう遅い。

信田:僕は、もう少し他部署との接続を増やしていきたいです。設計やカスタマーサクセスとか、賃貸管理と連動して動けるところはまだまだあるはずなので。一棟の物件をめぐる情報を、組織として活かせる仕組みをつくっていきたいと思っています。

玉井:会社の方針が変わらない限り、僕らに求められている方向は決まっています。オーナーさんの資産価値を守ることが第一にあって、そのために必要な判断を現場で積み重ねる。派手な仕事ではないですけど、自分の役割を全うしているという感覚は、ちゃんとあります。

玉井:建物管理は、一棟の物件に一番長く関わる部署なんですよね。営業や設計が完成した物件から離れて次に行くのに対して、僕らは渡された物件と最後まで付き合う。だから、未来を託された部署だと思っています。十年後、二十年後にこの物件がどう評価されるかは、僕らの今日の判断にかかっている。

玉井:それを誇りに思って、やっていきたいです。

INVALANCEのワンストップモデルは、つくる・売る・伴走する、の三段階で構成される。建物管理は、その「伴走する」の時間軸を、最も長く担う部署である。十年、二十年、三十年。一棟の建物と並走し続ける仕事は、表に出ることは少ない。しかし、その日々の判断こそが、オーナーの資産価値を支え、入居者の生活を支え、INVALANCEというブランドの未来を支えている。

未来を、託された。

その重さを、現場の二人は静かに、しかし確かに引き受けていた。

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